【上杉隆】11月1日ニュースの深層「トルコ地震とアルメニア原発」【アルメニアの状況とロシアの原発事情】その①

ゲスト:廣瀬陽子(慶應義塾大学 准教授)
司会:上杉 隆

(上杉氏)こんばんは。ニュースの深層火曜日、キャスター上杉隆です。

(西谷アシ)こんばんは。西谷ゆきこです。

(上杉氏)そして今夜のゲストはこの方です。

(西谷アシ)本日のゲストは、慶應義塾大学の総合政策学部准教授の廣瀬陽子さんです。よろしくお願いします。

(上杉氏)よろしくお願いします。廣瀬さんは、慶應でですね、ロシアじゃなくて、ロシアの周辺国というのも変ですけど、アルメニアとかですね、或いは、アゼルバイジャン、グルジアとかその辺り、コーカサス地方の研究がずっと専門で追ってらっしゃるんですよね?

(廣瀬氏)はい。そうです。そのコーカサス地域が専門ではありますけれども、やはりロシアを中心とした周辺国も大変重要ですので、旧ソ連、特にコーカサスを中心としたところから世界を見るというようなことを、ずっとやっております。

(上杉氏)その地域で気になるというのは、最近起こったトルコの東部での地震。それの影響を受けて、メツァモール原発。言いにくいんですけど。
それが、損害を受けた、損傷で放射能漏れが起こってるっていう報道もあったり、してるわけですが、そのあたり、日本に伝わってくる情報はどうもはっきりしないらしいですが、廣瀬さんの今の現在の情報としてはどうなんですか?

(廣瀬氏)あの、トルコ側は、事故といいますか、地震によって何らかの障害が発生して、若干の放射能が漏れているというようなことが言われているようですし、また隣のアゼルバイジャンでもそのような報道がなされているそうなんですけれども、少なくともアルメニアとロシアの報道を見る限りでは、そういうことはどうやらなさそうです。

(上杉氏)そのあたりのことを後程じっくりお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。

(上杉氏)はい。今日原発関係のニュースありました。思わず笑ってしまったのは、園田さんの映像を見たんですが、園田政務官ですね、原発、これどういう事情でこうなったか?っていうのは、実はですね、フリーランスの記者、自由報道協会も含めて一部関連してたんですが、もともとは田中さんというフリーの記者の方が、原発の水をきれいにして、それを敷地内の森とか木に撒いていたんですね。
それの安全性を問う形で「大丈夫なのか?」ということを園田さんに聞いていたわけです。
それを受けて、同じくフリーランスの寺沢ゆうさんが、
「そんなに安全というなら、是非飲んだらどうだ?」
と、いうことを言ったのが数週間前だったんですが、それで飲む・飲まないという形になりまして、
そして突然ですね、昨日「じゃあ飲みましょう」
と言って、飲んだというのがこのいきさつなんですね。

こういうふうに話すと、「あ、そうなのか」ということもわかるんですが、ただこれまでですね、突然報じられたような雰囲気なのは、マスメディアの人たちもみんな来てるんですよね。そのいきさつも当然、知ってるんです。その時は書かない。
そして、飲んだ瞬間こうやって面白おかしく取り上げるということなんで、安全性とかそういうのよりも、むしろパフォーマンスを取り上げて、これをパフォーマンスだと批判するのは、むしろ自分たちの仕事じゃないんじゃないか?というふうに思うので、ちょっとこれはメディア報道についておかしいなと思ったのが一つと。

あと、原発のニュースありましたよね。
最初に取り上げた、先ほど速報で入ってきたんですが、佐賀の原発、止まっていた原発を再開するということで、今夜の11時くらいですかね、にも稼働し始め、明日午後には営業運転というか、発電を開始するというニュースが飛び込んできました。
止まってはいないんですが、試験運転を営業運転にするというのは、北海道電力の泊3号機、これがありましたが、今回は止まっていたものを再開するということで、日本がどういう目で今回の事故を見られてるかというのが、どうもまだわかっていないのかな?と。
フランスにもアメリカにも事故後行ってまいりましたが、まずですね、原発の処理、まだ終わってないんですね。放射能はまだ出てますし。その事実をどうも無かったかのような、この報道ぶりと日本全体の雰囲気というのはおそろしいなと。
まずは、再開もいいんですけど、止めてから、それからいろいろ判断したほうがいいのではないか?という希望です。
もうずっと言ってるので、疲れてきました。

そして何と言っても、一つ腹立たしいニュースがあります。
それは、原発の福島第一原発の敷地内にマスコミの取材を認めるという細野大臣の発表がありました。
このニュース、昼過ぎに飛び込んできたんですが、思わず頭来て細野さんに直接抗議したんですが、もともとは3月の段階でフリーランス、自由報道協会の記者、海外メディアがずっと申し入れをしていたんですね。第一原発の中での取材を認めろということで、ずっと言ってました。
その間ですね、フリーランスの記者で山岡しゅんすけさんや、今西さん、この番組にも出た人たちは、直接その中に入って取材をしていました。

ただずっと認められず、そういう意味では政府に乗っかった、許可した取材ではなかったんですが、ただフリーランスはずっと言っていたこと、今回やっと認めたと思ったら、なぜ怒ったかというと、フリーランスの記者、海外メディアのフリーランスの記者、ネットの記者だけは入れないと、つまり連れていかないということなんですね。
これまで原発に入れろと言ったこともない記者だけは連れて行って、申し入れをしていたとこだけは排除するという、そしていうことを聞くんでしょう。きっと代表取材で、自分たちの都合の悪いところだけは出して(除いて)、言うとおりに書いてくれるとこだけを選んだとしか思えないということで、嘗ての25年前の旧ソ連のようなメディアの使い方をして、メディアのほうもまんまとそれに乗っかってしまうということで、まだ日にちがありますが、是非とも細野大臣はですね、きちんとした情報公開、民主主義の国に居る大臣だということを再認識されて、フリーランス並びにこれまで申し入れをしていた人間を、せめて一人か二人だけでも入れるように考えを変えていただきたいというふうに、カメラを通じて改めてお願いする次第です。

(上杉氏)はい。今夜のゲストは慶応大学の廣瀬陽子さんです。
改めてよろしくお願いします。
さきほどちらっと話が出たんですが、この原発、気になるので最初にお伺いしたいんですが、えーっと原発事故があったのは、この今回の地震があったとこでいうと、どこですかね?トルコの東のほうと端っこのところですか?

(廣瀬氏)地震がありましたのは、このトルコの東側のこの辺りですね。バンというところが中心となっているところです。

(上杉氏)メツァモール原発というのはどの辺?

(廣瀬氏)メツァモール原発は、トルコから国境16㎞のこの辺りですね。

(上杉氏)近い・・・

(廣瀬氏)本当に近いところです。

(上杉氏)それで、さきほど廣瀬さんも解説していただきましたが、情報によっては大丈夫だというところもあったり、駄目だというところもあったりするんですが、あんでそんなふうに情報が錯そうしてるのか、日本の福島第一原発も同じようなものだったんですが。どうなんですか?実際のところは。

(廣瀬氏)実際のところは、先ほども申し上げましたように、トルコやアゼルバイジャンは、「何らかの事故があったのではないか」というふうに言っておりまして、ロシア、アルメニアは「そのようなことはない」ということを言っています。
それで、実際に地震が起きたのは23日ですよね。
その後にも実はアルメニアの原発を巡って、国内でいろいろな動きがありまして、実はアルメニアの原発の労働者の給料は、ものすごく低くてですね、平均750ドルくらい・・・

(上杉氏)それは一日?

(廣瀬氏)一か月です。750ドル程度・・・

(上杉氏)日本だと5万円ちょっと・・・

(廣瀬氏)日本円の感覚ではその程度だったわけなんですが、それに反対をしまして、10月の最初から実は、賃上げ交渉みたいなものが激しくなっていまして、一部ストライキを起こしていたんです。しかし、トルコの地震があった翌日24日に、アルメニアのほうで賃上げを発表しまして、最初は労働者を50%のアップを要求していたんですが、結局50%は認められずに、30%から40%のアップというところで収まったわけなんですけれども、それをもちましてストライキは終わって、正式にみんな仕事に戻っているという状況ですので、もし原発の事故があったら、そういうことは起こらないのではないかな?と思いますし、常々アルメニアが言っていることなんですが、アルメニアは小国ですし、あまり技術のない国で、原発の運転はロシアにかなり依存しています。

「もし、アルメニアで事故が起きた際には、アルメニアは自力で放射能に対応することができない」
ということをずっと言っていたんですね。
もし何かあった場合には、一国で粛々と対応できるわけがないと思いますので、恐らく何もなかったのではないかと思われます。

(上杉氏)ただ日本の例、まぁ例を出す時代になったのかとびっくりしますけど、福島第一原発のときも、最初は放射能漏れは起きていないと言って、作業員の方働いてましたよね?
結果、とんでもない線量が出てたんで、あの時のことを考えると、実際は出てるのに政府がそれを隠して働かせているっていう、こういう可能性はないんですかね?

(廣瀬氏)その可能性は確かに捨てきれないものはあります。もちろんチェルノブイリがありました旧ソ連のお国柄でもございますので、そこまではちょっと判断つきかねるとこではありますけれども。

(上杉氏)なるほど。ただ、今現在どうなっているかというのは、もちろん誰もわかりにくいとこなんですが、むしろ原発自身、この原発、メツァモール原発ですか?これ自体は、「世界で最も危険な原発だ」と、こんなふうにも言われているんですが、実際そのあたりはどうなんですか?

(廣瀬氏)実際そのように言われておりまして、やはり基本的に旧ソ連型の原発は危険だと言われていまして・・・

(上杉氏)なぜですか?

(廣瀬氏)ほとんどが格納容器が無いんですね。

(上杉氏)え?格納容器が無いんですか?

(廣瀬氏)はい。

(上杉氏)え?格納容器が無いっていうと、どういう構造です?

(廣瀬氏)チェルノブイリと同じようなことが簡単に起きる可能性があるということで、そういうこともありまして、実はチェルノブイリの事故が起きました後に、メツァモール原発は一時期停止をされていました。
しかし、アルメニアは資源が全く無い国ですので、それで非常に寒い思いをしまして、それで且つアルメニアは隣のアゼルバイジャンと紛争を抱えていまして、アゼルバイジャンは資源大国なわけなんですけれども、そのおこぼれにあずかることもできない。
また、さらに隣国のトルコとも非常に関係が悪いということがありまして、実は国土の80%を敵国に囲まれている状況なんですね。

(上杉氏)ということは、ロシアに依存しないと安全保障上もエネルギー政策上も生きていけないという、そういう国なんですか?

(廣瀬氏)はい。そういう国でして、更に非常にプライドの高い国なので、やはりなるべくであれば、他に頼らず自分たちで電力を作りたいという、そこでもどんなに危険でもメツァモール原発を再稼働させていこうということで、ソ連の時代には、やはりモスクワの統制がありましたので、メツァモール原発は止まったままだったんですが、独立後に1991年12月にソ連が解体しまして、構成国すべて独立をしましたので、その際にメツァモール原発第一と第二があるんですけれども、

(廣瀬氏)第二のほうのみの再稼働ということで、やりました。

(上杉氏)なるほど。このアルメニアの方が非常にプライドが高いというのは、どういったことで高いんでしょうか?

(廣瀬氏)アルメニア人というのは、よくユダヤ人となぞられる民族なんですけれども、非常に賢い民族でして、よく「ヤン」とか「アン」とか名前に付く人がアルメニア人に多いんですけれども・・・

(上杉氏)名前の最後にですか?

(廣瀬氏)はい。「カエヤン」とか「マナヤン」とか。そういう方はよくアルメニア系の方が多くて、割と芸術的センスですとか、あと商業に非常に長けているんですね。
さらに、アルメニア本国よりもその何倍も海外に居て、財を作るという人が非常に多いので、非常にその点ユダヤ人と似ているわけです。
ですから、ディアスポラの文化があり、且つ商才に長け芸術的センスも高いと。
逆にそれもユダヤ人と似てるんですけど、周辺国との関係は非常に悪くなりがちという傾向があるんですね。
そういう中で自分たちはお金もあるし、非常に誇り高き民族だという誇りがありまして、アルメニアは今は非常に狭い領土でして、旧ソ連諸国の15か国の中でも一番狭い領土なんですけれども、一時期、「海から海へ」と言われるほど大きな領土を持っていた時代があります。
カスピ海から地中海までの距離なんですけれども。
その領土のことを彼らは「大アルメニア」と言っていまして、その失われしアルメニアを奪還するっていうことを非常に彼らの誇りとしているんですね。
その失われたアルメニアの領土の中に、現在トルコ領にある「アララト山」というのも含まれています。
アララト山は本当にアルメニア人にとっては聖地でして、ノアの方舟伝説もあるところなんですけれども、アルメニアの今の国のシンボル、国章にはアララト山が付いてまして、国中アララト山のシンボルばかりなんですね。
トルコは、それを非常に嫌がっていまして、今トルコ領にございますので、
「自分の国の領土にないものを国のシンボルにするな」
というような申し立てをしたことがあるんですが、それに対してアルメニアは、トルコの旗には月と星がついてるんですが、
「月と星はトルコのものではないんだから、外せ」
と言って応戦したくらいで。非常に仲が悪いという経緯があります。

(上杉氏)なるほど。ではこのアルメニアにはこのような感じの土地、黒海とカスピ海と地中海の間にありますけど、当時は一時版図でいうと、かなり大きな国だったわけですね。その栄光をもう一度とか、そういう形での民族の悲願みたいなものがあると?

(廣瀬氏)そうですね。

(上杉氏)ただ、このアルメニア、孤立してるのもあるんですが、この地図で見ると、例えばアルメニアの南にあるアゼルバイジャン、これ、もっと小国で、もっと厳しい状況じゃないかと、ぱっと見ると思うんですが、これが資源が非常に豊富というのは、これは何資源ですか?

(廣瀬氏)アゼルバイジャンは小さい国ではございませんで、この大きいところと、このカスピ海に面したところにある、飛び地があります。
アゼルバイジャンはこのカスピ海沿岸に、膨大な天然ガスと石油を持っておりまして、今バクーは活気を示してまして、街はドバイのように巨大なビルがたくさん建っている状況で、経済の成長率も数年間ずっとトップを築いてまして、一時期年率で37%くらいの成長率を示していた時代もあったくらいの国なんですが、逆にアルメニアは何も資源がなくて、一番小さい国でという感じで、この飛び地もそうなんですが、アゼルバイジャンの中にありますこのナゴルノ・カラバフ自治州というのが非常に問題となってまして、アルメニアとアゼルバイジャンの関係は非常に悪いものとなっています。

【その②】に続きます。

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