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【書き起こし】孫vs佐々木対談「光の道は必要か?」2 佐々木俊尚プレゼン

孫正義vs佐々木俊尚対談「光の道は必要か?」Part2
「佐々木俊尚プレゼンテーション」の書き起こしです。

聞き間違い、わからなかったところ等ありますがご容赦ください。
(ご指摘歓迎)

【書き起こし】孫vs佐々木対談「光の道は必要か?」1 孫正義プレゼン

佐々木:
基本的に、孫さんが仰る、今後はすべての機器がインターネットにつながるようになるであろうと、故にものすごいたくさん帯域を必要とするようになる、それはまったく僕も同意というか同じ考えで、将来的には確かにブロードバンドの環境をきちんと確保しなきゃいけないというのが重要な課題だというのはよく理解しています。

同時に、将来的に電子カルテだとか電子教科書みたいなものが普及することによって、それが社会のインフラになり、新しい社会を作っていく、ということについてもまったく同意なんですね。

ただ結局問題は、今の状況で何をすべきかという、選択と集中の問題において、やるべきことがちょっと違うんじゃないか、というのが私の考え方なんです。

そのお話をちょっとしたいと思うんですけども、ファイルがまだ用意されていないんですね?(笑い)

孫:
だいぶツイートきてますね。

佐々木:
ちょっと切り替えてもらえます?

孫:
ファイル切り替わる?

佐々木:
とりあえず先日ブログにアップした「光の道に対して反論する」という、その話のおさらいというところからひとつお話をしたいと思います。

佐々木:
まず日本のブロードバンドがどういう状況になってるかという話を少ししたいと思うんですけれども、「e-Japan戦略」っていう、これもう孫さんも非常に深くコミットしてあるっていうので、今更説明するわけではないんですが、2000年、小渕内閣のころにIT戦略をきちんとやらなきゃいけないっていうことを、政府が決めて、森内閣のころですね、2000年から2001年にかけて、「e-Japan戦略」っていうのが策定されたわけです。

その中で、一番にあげられたのが、世界最高水準のインターネットインフラを作りましょうと。
それ以外に、電子商取引ですね。いわゆるインターネットのショッピングの市場を大きくやっていきましょう。
それから電子政府を作りましょう。
それから共にIT、コンピューターとかインターネットの知識を持っっている人たちを、今後は育成していきましょう。こういうことが語られたわけなんです。

孫:
小渕さんにね、IT戦略をやらなきゃいけないと、実は最初に言ったのは僕で。ホテルオークラの朝食会で、小渕さん捕まえて、日本このままじゃまずいということで、IT戦略会議を作りましょうと、そっから始まったんです。

佐々木:
そうですよね。それ私も当時取材していたのでよく存じあげております。
で、その中で一番目玉とされたのが、「e-Japanの重点計画」というのがありまして、3000万世帯が高速インターネットアクセス網に、1000万世帯が超高速インターネットアクセス網に常時接続可能な環境を作りましょう。
これ、何か日本語がおかしいのでよく言ってることが分からないんですけど、「高速インターネットアクセス網」というのがADSLのことですね。当時で言う。
「超高速」というのが光ファイバーですね。
つまり3000万がADSL使って、1000万が光ファイバー使いましょうっていう話をした。
これは現実では、ほぼ100%ではありませんけど、実現しているのが事実です。

孫:
これは本当はね、e-JapanのIT戦略本部で、皆が抽象的に言ってるけど、僕は数字を絶対入れないといけないと思ってる。
ADSL3000万、光1000万という風に実は言ってる。
で、ADSLっていう言葉を“高速インターネット”と、彼らが翻訳して、ひかり、超高速という風に翻訳して、数字を入れないと目標にならないんですよ。

佐々木:
そうですよね。

孫:
っていう風に、強く迫って入れたのがこれなんですよ。

佐々木:
この数値目標は非常に素晴しい当時としては目標で、実際これに向かって、その推進、政策が進み、同時に孫さんがYahoo!BB始めることによって、劇的に日本がブロードバンド化されてって、これはもう全く素晴しい成果であり、誰もが認めてるところだと思うんですね。

ただ問題はね結局その後なんですよ。IT経済学についての2003年できました。さっきの2001年。その二年後なんですけども、ここでですね、要するに「ブロードバンドのインフラについて営業を粛々と進めていきましょう。ただし、その代わりにインフラを使って何をしますか?」っていういわゆる“利活用”っていう利用と活用のことなんですが、利活用をしていかなければいけませんということを語るようになってきた。

で、これはここに出ているような、医療の電子カルテとかですね。それから牛肉のトレーサビリティ、当時『狂牛病』とか問題になってましたから、どこで生まれた牛肉なのか、牛なのかということをきちんと追えるようにしましょう。

後は生活の安心やセキュリティシステムであるとか、あるいはクレジットですね。信用保証。お金を企業が借りるときに、その信用保証をデジタル化しましょう、みたいな話が真面目に語られたわけです。

後それ以外にない『7分野』って言われたんですけど、コンテンツの国際競争力をつけよう。
それから、テレワーカー制度、最近“ノマド”なんかがありますけども、リモートで家から仕事ができるような環境を整えましょう。
最後は行政。いわゆる電子政府で、ワンストップの行政サービスを作っていくようにしましょうっていうような話をしたんです。

ところが、この2003年に、この語った7つの分野の利活用のテーマというのは、実はその後永遠と、ほとんど毎年のようにですね、そのIT戦略本部とか、あるいは総務省、経産省(経済産業省)あたりが、新しいそのIT戦略っていうのを策定するんですが、毎年毎年同じことばっかり語っている。

電子政府は、もうずーっと未だに語ってて、この民主党政権も、新しいIT戦略にはやっぱり電子政府が盛り込まれてる。
で、何で毎年毎年同じ事をしているかというと、結局、何も進んでないからなんですね。この14年間。これは孫さんも認めざるを得ないと思うんですけれども。

孫:
ちなみにね、その最初のe-Japanのときの、“1(ワン)”のときは僕は中心的メンバーで、相当ガンガンやってたんですけどね、“2(ツー)”のときはね、“1”でガンガン言い過ぎて、“2”のときメンバーから外されたの。

佐々木:
確かにおっしゃる通りですね、それは(笑)

孫:
僕が、要するに“2”のときも入ってたら、もうちょっと具体的なね、ああいう抽象的な言い方じゃなくて、何を何時までに、どんなものをやると、いうところまで具体的に明確化してやっていたと思う。
あれは抽象的すぎて、どこまで行ったら達成したのか、何も分からないと。アバウト過ぎるということですね。
結局、目標というのは、数値と期限を明確にして初めて具体的な戦略が出てくると。

佐々木:
ただね、必ずしも、その数値化されてないからというわけではなくて、例えば、電子カルテに関して言うと、結局電子カルテを何年までに、きちんと導入しましょうという、その年度目標とか立ててるんですけど、結果的には、厚生労働省が動かないとか、あるいは医師会が動かないとか、そういう人的な問題の方が強い、でその結果動かなかったってことがあると思うんですよ。

孫:
その医療化、電子カルテについてもね。僕だったら、国家が100%無償の電子カルテを提供して、電子カルテが、今配られている電子カルテっていうのは有償で、しかも全部仕様がバラバラで、しかもそれはローカルな中の、一つの病院の中の電子化を図るというだけであって、何らクラウドになってないの。
つまり、病院間をまたがった形での電子カルテに全然なってない。
だったら電子カルテの意味がほとんどない。単なる事務作業が改善する、病院の中のローカル・エリア・ネットワークですよ。
だからネットワークの思想としては、はるか昔の遅れた発想で、本来電子カルテというのは、社会として、共通インフラとしての医療クラウドがあって、そこに、無償で配られた統一の電子カルテ端末が、共通クラウドにスパっと自動的につながると。
しかもそれを、五年以内にやると。
ここまでいくと、無償で貰えるなら、「あ、文句ありません」と。
高いから入れない。ね?
病院ごとに違うから入れるのが面倒くさい。しかも病院がまたがったら、一箇所でレントゲン撮って、別の病院行ったらまたレントゲン撮りなおさなきゃいけない。何ら、効率アップになってない。ということだと思うんですよね。

佐々木:
あのー、おっしゃる通り、それは勿論長い期間を掛ければ将来的には、そのクラウドベースの、

孫:
長い期間じゃなくて5年! 僕ならば5年!!
そういうふうに明確な…

佐々木:
仰るとおりなんですけど現実には電子カルテのシステムというのは進んでるんですけども、まず最初に仰ったような、各病院ごとのスタンドアローンの電子カルテ、

孫:
待って、それがだめなんです。要するにまずはローカルごとの電子カルテになると異なった電子カルテ同士あてで繋ぐのは至難の業で

佐々木:
もちろん孫さんの仰るクラウドベースの全国共通の電子カルテというのはすばらしいと僕もわかりますよ。僕は必ずしもスタンドアローンである電子カルテをまずやるべきだと思うし押してるわけではなくて、なぜそれが一気呵成にいかないかという話をしているのです。

孫:
ビジョンが明確ではないからです。誰も明確なビジョンでいつまでに100%の医療カルテを電子カルテ化する、100%電子カルテの情報を統一クラウドに集めるというビジョンを誰も明確に示していないからなんです。
誰も大きな声でそれを叫んでいない。

佐々木:
電子カルテをやりましょうと言うことはさんざん言ってるんですけど、

孫:
電子カルテを統一クラウドと言うことを誰も言っていないのです。命を張ってそこで事をなそう言うようなビジョンと心意気とコミットメントをする人物が日本国家に誰一人としてその本気の男が生まれていないと言うことが一番の問題なのです。

佐々木:
医師の団体とかは、あるいは厚生労働省が全くついて行けない、あるいはお医者さんの間でも電子カルテそのものに抵抗力が強い人がいっぱいいるわけですね。紙の方がいいと仰っているような。現実に日本のクリニックを含めると電子カルテの普及率は10%位にとどまっちゃっている。
それを進めるためにビジョンはもちろん大事なんですけど、それ以上に医師のリテラシーの底上げであるとか、医師会をきちんと説得するとかの人的な努力はどうしても必要になってくると思うんですよ。

孫:
努力は当然必要だけれども、ビジョンのないところに努力はしようがない。明確なビジョンと目標と、しかも期限付きの目標と、何をやるか何故やるかどうやってやるかというような明確な旗印がないと、みんなが中途半端にチマチマチマチマ、あそこで愚痴を言ってこっちで愚痴を言って、結局みんな愚痴を言って、日本が丸ごと医療費倒れをすると言うことだと思います。

佐々木:
もうちょっと話をしましょう

孫:
はい。

佐々木:
電子カルテに関して言えばですね、電子カルテはブロードバンドが普及すれば即普及するのかというとそんなことはなくて、カルテが電子化されました、それがブロードバンドに流通する、そこには電子カルテのプラットフォームが必要ですよねと。
今の日本に一番欠けているのはこの真ん中の電子カルテのプラットフォーム部分が欠如している。

孫:
それはそうですね。

佐々木:
要するに共通の基盤でですね。同じように電子カルテが標準規格化されるというのがさっき仰ったとおりに、各ベンダーですね、いろんなメーカーの電子カルテのシステムを提供しているのだけれども、これがメーカーごとに全然規格がばらばらであると。
しかもそれを各病院で電子カルテ化したものを病院のネットワークに乗ってく。
つまり単なる電子カルテではなく「EHR(Electronic Health Record)」と言われるようなカルテのネットワーク化と言う方向に持って行こうとしても、実証実験レベルではできるのだけれども、面的に展開しようとするとどうしても地元の医師会などの抵抗が強くて、そこまで進んでいかない。

そういう問題の中で一番重要なのは、電子カルテのプラットフォーム部分をどう構築するか。
これを国がどうやって集約できるのか、それともそもそも日本国内のベンダーがまともな電子カルテのプラットフォームさえ作れないのであれば、いっそこのグローバルの時代において、アメリカの例えばマイクロソフトのHealthVault(ヘルスヴォルト)とか、グーグルはGoogle Health(グーグルヘルス)という電子カルテのプラットフォームを作ってる訳ですから、それをそもそも持ち込んでもかまわないじゃないかと。
使っている側ですね、要するに医師側ではなくて、患者側や我々国民にとって、ある種のプラットフォームが利便性が富むのならば使ってもいいのではないか、そこの規制を撤廃し、そこのプラットフォームをうまく動くようにしていくことが実は僕は大事じゃないかと思っているんですね。

孫:
はい。

佐々木:
それはブロードバンドがもちろん大事です。大事ですけどそれだけでは動かないって言うのが基本的な考え方。
これは電子教科書も全く同じで、ブロードバンドに電子教科書を流通させるプラットフォームが存在し、その上にiPadのようなデバイスを使って教科書をしましょうというのはありなんですけど。
現状の問題、iPadを仮にいくら全国の学校すべての生徒に配ります。その後ブロードバンドを普及させますといっても、そこで例えば学校の先生のリテラシーがこれほど低い、そしてそれに載せるアプリケーションがきちんとできていない、じゃあ電子教科書を流通できるのかどうか。
例えば今、日本の学校で電子黒板というもの結構導入されているんですけども、電子黒板というのはものすごく出来が悪くてですね、ほとんど使われていないのが現実なんですね。
これはベンダーの側、作ってるメーカーの側がろくなものを作れないという日本の今の産業界の問題もあるし、一方それを受け入れる側の学校側の教育委員会や学校のこんなのじゃだめだからきちんと使いやすいものを作りなさい。こういう仕様にしなきゃだめですよといえるだけのリテラシーも持っていない。
結局真ん中の部分ですよね、そのプラットフォーム部分を何とかしない限りは、先には進めないんじゃないのかなと。

僕は最近、3層モデルの説明をいろいろなところでやっているんですけど、コンテンツ、コンテナ、コンベヤモデルって言ってるんですね。
コンテンツは、そこに載る電子教科書だったりカルテだったり。
コンベヤと言うのは、それを載せる媒体ですね。ブロードバンドなのか、あるいは電波なのか、無線なのか、固定なのか。

一番重要なのは、真ん中のコンテナ部分。
コンテナって言うのは何かっていうと、流通・配信させるプラットフォーム、
あるいは、そこにプラス、決済のような仕組みが持ち込まれるかもしれない。
ここの真ん中のプラットフォーム部分をどう取るかというのが一番重要で、たとえばテレビだったら、テレビ番組は、ブロードバンドや電波の上で流れますと。
真ん中のテレビプラットフォームっていうのは、従来はテレビ局が編成していたんですけど、これがインターネット上に移ることによって、YouTubeやUSTREAMのようなものになったり、あるいはひょっとしたら新しい最近グーグルがGoogleTVというシステムを作ろうとしてますけど、こういうものになってきている。

きりがないので、次に行きますけど、音楽だったら、かつて垂直統合でレーベルで売っていたものが、今ブロードバンドの上で、iTunes Storeで楽曲を流している。
一番重要なのはiTunesをいかに使い易く、決済しやすいかと言う、このプラットフォームをどう構築するかということである。

電子書籍も同様である。ブロードバンドの書籍のコンテンツが流れます。
その時に一番重要なのは、ブロードバンドがもちろん大事なんだけど、それ以上にiBookStore、Kindle Storeのような電子書籍が流通するシステム、いかに使いやすいものであるか、消費者の利便性が高いかと言うことを考えないと
いけないよね、ってことだと思います。

一番大事なのは真ん中のプラットフォームレイヤーとか、コンテナレイヤーとかいわれている部分を、いかに素晴らしく使い勝手のいいものにしていくか、ということこそが一番重要なのかなと。
ところが今の日本では、それがうまくできてないのが現実だと思う。

もうひとつ例を挙げると、富山県に山田村という村があるんですね。孫さんもご存知じゃないかと思うんですけど、1996年に当時の小渕内閣が全国に先駆け、当時はブロードバンドはもちろんないんですけど、村民に無料でパソコンを配布し、全家庭にISDNを、64Kbpsの非常に細い回線ですけど、常時接続の回線を敷くという実験をした。
世帯の6割にテレビ電話付きパソコンを無料配布、ISDNを開通させました。
当時「電脳村」とかすごい言われて、おばあさん、おじいさんがみんなパソコンを使って、すごい先端的だと、これから世の中は田舎の村でも、みんながこうやって、パソコンとインターネットを使いこなせるようになるんだと、新聞やテレビでものすごい勢いで紹介された。

今これがどうなっているかというと、実はパソコンはホコリをかぶって、ブロードバンドになったときもみんな乗り換えなかった。
これは料金が高かったと言う問題ではない。僕はこの村を取材してないので一次情報がないのですが、たとえばこういうことを書いている人がいる。

「電脳村は昔話になった。
持続的な取り組みに
必要な人材が不足していた」

つまり配布されたパソコンやインターネットを、どういうふうにおばあさん、おじいさんが利用すればいいのか、きちんとビジョンで語る人がまったくいなかったということなんです。

これが結果として、パソコン相手に何をしていいか分からない、使い道が無いものはさびれてしまうという例。今は平成の大合併で村が無くなっている。
山田村もなくなり、パソコンも使われなくなってしまったという現状がある。

一方で、田舎だとまったく使われてないかというと、決してそうではない。もう一個例をあげるとこれです。
徳島県の上勝町(かみかつちょう)。非常に有名な葉っぱビジネス。それはなにかというと、田舎の山の中に、東京の料亭とかレストランで使うような、料理で使える葉っぱが生える。
こういう葉っぱは東京のレストランや料亭ではニーズがあるが、田舎では全然誰も収穫してなかった。
だったらこれを田舎で収穫して、市場経由で東京のレストランに流したら売れるのではないか、ということを非常に先進的な農協の人が考えて、おばあさんたちを使って、山に行っていろんな葉っぱを収穫。
それを市場に持っていって売って、東京に運ばれるという仕組み、それを旗揚げして非常に大きなビジネスになった。
おばあさんが葉っぱをとって、幸せになってきている。

実はここの一つの注目点は、インターネットをものすごい勢いでバンバン活用されてるんですね。
なんで活用されているかというと、画面的にはこういうので有名なんですけど、
最新のパソコンでも何でもないんですけど、こういう感じでおばあさんたちがパソコンを触っている。

なんで使われるようになったかと説明しますと、このビジネスを率いてる横石さんという男性がいるんですが、彼は、パソコンを使わせたらいいんじゃないか、パソコンをつかったら、この葉っぱのビジネスがもっと成長するかもしれないっていうんで村とかに掛け合ったりするんですが、なかなか受け入れてもらえない。
実際に山田村とかに視察に行ったりすると実際つかわれてなくてホコリかぶっちゃってる。

用のない人にパソコンを渡しても結局ただの箱でしかないよねと。
これじゃだめだということで、彼が何を考えたかというと、まずひとつはこれをやったんです
高齢者に使い易いブラウザを独自に開発し、専用ブラウザ「いろどり」って名前なんですが。
さらに専用キーボード、キーの数は少なくて大きい、お婆さんでも押しやすいキーボードをつけた。
さらにトラックボール。マウスはやっぱり使いづらいので、ボールの大きい巨大なトラックボールをつけて普及させた。
そうはいっても設備でしかないわけですから、普及される原動力にはならない。

一番大きかったのは、売上順位の競争。
今日、おばあさんが何かの葉っぱ、もみじの葉っぱを取ってきました。
これを10個売って、なんか別の葉っぱ10個売りました。
昨日の売上が5000円でした。
というのが、村の中で全部おばあさんが序列化されていてですね、そうすると、このお婆さんは、昨日売上は5000円、こっちのおばあさんは売上7000円、あそこのおじいちゃんは売上8000円、っていう感じで全部ランキングが表示されるんですね。

これが村のお年寄りたちの競争心を著しく煽りですね、みんな必死の勢いで葉っぱをとり、それをインターネット上でウェブのサービス、「いろどり」っていうブラウザをつかうと、今日自分が収穫してきた葉っぱの値段がいくらなのか、あるいは朝の段階で今日の葉っぱの値段の市場価格はいくらなのかという一覧表がでる。
その一覧表を見ながら、今日なんとかっていう葉っぱの値段は高いから今日はこれをとりにいくかっていうんで、自分の頭の中でその葉っぱの値段と自分が今行ける山の中で、どういう葉っぱをとるかというのを相互に計算して、それを元に今日は8000円位取れるだろうとこの葉っぱをとりにいこう。
実際やってみたら、隣のおばあちゃんが5000円だったけど、私は6000円だった。みたいな競争心。
これが完全な突破口になって、ものすごい勢いで普及していった。

つまり、人々が何を求めているのか、そっから考えないとコンピューターの普及、インターネットの普及というのは、どうしてもありえないっていうことなんですね。

だから我々がまずやるべきなのは、インフラじゃなく、こうした真ん中のレイヤー、プラットフォームの部分、どうやってアプリケーションを使わせるのか、そのプラット部の構築に全力を尽くすというのが今現在のやるべきこと。

しかもこの10年間全くやられなかったことなんですね。

もう少し例をあげてみましょう。
だんだん話が抽象化しているんですか。例えば本っていうのを考えると、さっきの三層モデル、「コンテンツ」と、流通システムである「コンテナ」と、それが載る媒体である「コンベア」ですね。

昔、ものすごい古代の時代においては、本というのは粘土板に書かれていた。
粘土板に杭かなんかで書かれていた。

それをどうやって本をつくっていたかというと、写本だったわけです。誰かが書いた本、書籍の中身みたいなもの誰かが手書きで写して粘土板に書いていた。

これがそのあとどうなったかというと、パピルスですね。
エジプトの時代になると本の中身は写本というのは変わらないんだけど、これがパピルスに移った。
次は中国だとコンベア部は竹簡という竹の茎に移る。
中世のヨーロッパだと羊皮紙に移る。

一貫してコンベア部分はどんどんどんどん移り変わっていくんですけど、ただし、その本の中身そのものははかわらないし、写本という仕組みですね、本の中身を写して書くということについては、何らかわりははなかった。

これが日本だったら和紙だった。
これはやっぱり、写本として本の中身を書くというのはかわりません。

っていうことは、なにをいっているかというと、粘土板→パピルス→竹簡→羊皮紙という変化はいっぱいおきているけど、実はこれは、本の本質ではないってこと。
写本というシステムによって流通させたことが、本の本質だということ。

じゃあ、印刷は何を変えたのか。
本の中身を紙に印刷しました。これは羊皮紙が紙に変わったというのが重要な話ではない。
写本の時代にも日本の場合は和紙に写本していたわけですから、実は重要なのは紙に書いたことではなくて、印刷という流通システムに変えたこそことが一番の重要な問題なわけですね。

これは何が引き起こしたかというと、非常に有名な話なんですけど15世紀の印刷の発明は、ルネッサンスの宗教革命を引き起こしたといわれている。

なぜこんなことがおきたのか。ひとつ、写本の時代においては、本をいちいち書き写すわけですから、本の数が非常に少なかった。
ヨーロッパ中のいろんな修道院にばらばらと散らばっていたので、全ての本を確認するというのは非常に難しかった。
だからこそ自分が新しい論理を発明したりとか、新しい哲学を考えたとき、過去に既に語られたものなのかどうか、確認しようがなかった。

ところが印刷することによって物流、紙がどんどんどんどん流通する、本そのものがあちこちにたくさんあるという状態になる、図書館ができてくると、何かあたらしい科学が発明したというと、それをすぐ図書館に行って確認することができる。

つまり「知」が一般化した、ということなんですね。
その「知」の一般化こそが実はルネッサンスを引き起こし、ギリシャやローマ時代にはこんなすごいことを考えていたんだとみんなが気づいたということなんですね。

これこそがルネッサンスの引き金になった。

同時に宗教革命。これは何か。
中世まで、キリスト教の聖書というのは神父さんしか読んじゃいけなかった。これはものすごく貴重なものであり、部数も少ないから、神父さんが一生懸命読んで、それを口伝えで信徒に伝える、というのが基本的な宗教のあり方だった。

それが印刷革命によって聖書が刷られた。大部数が流通した。
それで何がおきたかというと、みんなが一般信徒が自分で聖書を読むようになった。それに対して教会はものすごく怒ったわけです。
一般信徒のくせに自分たちで勝手に聖書を読むとは何事か、けしからん! と怒ったんだけど、結果的にはどうなったかというと、それが引き金になって、自分たちが直接神と向き合う。教会を経由しないで、神様はこんなことを言ってるのか、イエスはこういうことを言ったのかと知ることによって、それが宗教革命につながった、というのが大きなできごと。

ルネッサンスと宗教革命というのは、印刷が引き起こした巨大なパラダイムの転換なんですね。

そこで考えると、デバイス、コンベア部分の変化ではなくて、実はこの一番真ん中のプラットフォームの変化こそが、すべての新しいパラダイムを引き起こす、革命を引き起こす最大の原動力になっていくということなんです。

いまの電子書籍に関してもまったく同じで、本の中身が別にiPadやKindleや、何か○○○が重要なのではなくて、それがデジタル配信される、それによってさらに紙の時代よりも広く流通することこそが電子書籍化の本質なんですね。
既に真ん中のプラットフォーム部分、真ん中のレイヤーこそが実は意味がある。
ネット配信こそに意味がある。
これこそが社会を変える原動力になっていくんだ。

そこを理解していただきたいと思います。

じゃあこのプラットフォームはいったい誰が担うのか。という話。

ちょっと待ってくださいね。もう1つ。

プラットフォームはいったい「誰」が担っているのか。
これは日本が直面している大きな問題の1つである。

真ん中がとれていない。
日本はプラットフォームをとるのが非常に下手くそである。ブロードバンドは普及させました、コンテンツもいっぱい作っています。ところが真ん中の部分のレイヤーをとるのが非常に下手くそ。
だから音楽の世界でiTunesという外資に取られてしまい、今は電子書籍の世界ではKindleやiPadという外資に取られてしまうと言うことが劇的に起きてきているわけですね。

スライドを写してください。

音楽や本やWEBや国際コンテンツ、国際ブロードバンドの間にある海外プラットフォームに取られてしまっているのが現状である。
医療や電子政府はどうなのかというと、これは海外のプラットフォームが入れない。何故かというと規制があるから。その代わり規制があるから入れない代わりに、国産プラットフォーム全く立ち上がらずに、グズグズになっちゃっているのが現状である。

こういう形でプラットフォーム戦争に敗走しつつある日本、非常に厳しい状況にいまや立ち入ってしまっている。これはグローバルの市場の中で我々は負けつつある。これを再認しなければいけない状況に来ている。
この辺は後で話をするんで飛ばしますけど、まあずっと説明するか。

孫:
いいですよ。時間十分ですから。

佐々木:
そうですか。
海外ではプラットフォームそのものが巨大に立ち上がり、それがグーグルのブック検索であったり、iTunesであったりとかして、その上で様々なモジュールが出来上がってくる。

例えばツイッターというのが一つの大きなプラットフォームになってきている。つぶやきプラットフォームですよね。
それをツイッターのアプリケーションであるとか、あるいはツイッターのログを取るサービスであるとかですね、あるいはツイッターでマーケティングのデータを取るサービスが出てきたりして、そういう形でモジュールビジネスがどんどん出来てきている。
という状況の中で日本の小さなベンチャーも、プラットフォームを持つのではなく、モジュール側を取ることによってビジネス化をしようという動きが出てきているんですね。

これを持ってして最近は「タイムマシン経営は終わった」と。
徳力基彦さんというアジャイルメディアネットワークの会社の社長さんがブログで書いてて、なるほどなと思ったのですけれども、かつての時代においてはこのプラットフォームになかなか入ってこなかった。これは言葉の壁があったからなんですね。
だから海外で流行ったプラットフォームを1年遅れ2年遅れで日本に似たようなものがあればそれが結構流行ったりしたんですね。
例えばツイッターが流行ったら日本でツイッターに似たような何とかブログみたいなサービスを立ち上げて、まあサイバーエージェントとがやってたりしてましたよね。そういうものを日本でやると結構流行ったりすると言うことが起きていた。

ところが今は海外のサービスというものは日本語が通っちゃうので、そのまま日本に来ちゃうんですね。ツイッターは今では日本語化されていますけど当初は英語のメニューのままだった。
それでも日本人はばんばん使ってたわけです。という状況の中でタイムマシン経営、つまり海外で流行っているプラットフォームを日本語に置き換えることによって独自に立ち上げるというのは終わりつつあると言うことなんです。

だから我々日本人の起業家にとって、僕は起業家ではないですけど、日本の産業界にとって考えなきゃいけない事は、プラットフォームを奪取して本当にやっていくのかどうか、それともモジュールに特化してビジネスを展開していくのかどうか、今やそこにシフトしてきている。

一方で日本がかつてのように高度経済成長で非常に強い国だった時代はともかく、今は全プラットフォーム奪うというのは全然現実的ではないわけですね。実際に音楽にしろ電子書籍にしろいろんな分野で海外のプラットフォームに奪われつつある。そういう状況で我々はいったいどうするべきなのかと。これは選択と集中なんですね。

もう少しで終わる。

ブロードバンドはもちろん超重要です。これは僕は孫さんに全く反論することは何もない。仰る通りブロードバンドは普及しないといけないと思う。
ただし現状の選択と集中という局面、つまりこれだけ財政赤字が膨らんで、日本の国費が非常に逼迫している状況でどこに集中させるのか、どこにリソースを与えるのかいうのは非常に重要な問題になってきている。

もちろん本当に国費ゼロで出来るのなら私もブロードバンドを普及させる、全世帯に100%、これは大賛成です。ところが現状を見ていると、例えばNTTが、あるいは経済ジャーナリストの町田徹さんが主張しているように、3.9兆円メタル維持費を2.5兆円光整備費に入れ替えば安くすむと孫さんは仰るけど、その中には光の維持費が入っていないじゃないかという問題。
これはもちろん説明がなされると思うのですけど、でも一方で最初に提示された資料の中に提示されていないというのは、これはちょっと僕はずるいと思うんですね。
ちゃんと情報をすべてオープンにされた上で本当に国費ゼロですむのかどうかを説明されないとやっぱり理解できないと思うんですよ。
あるいは光維持費10年で2.9兆円と書かれていますけども、その中に電柱土木費が入っていないんじゃないかとNTTは言っている。これは僕は正しいかどうかわかりません。僕は通信の専門家ではないし、現場レベルの人間でもないので、これについて議論するつもりはありません。
ただしこういうような批判が出てきている。反発も出てきていることは認識されるべきだと思うし、であればこういう部分が不透明なままで議論を進めると言うことは、どうなのか、という事だと僕は思うんですよ。

だからこれで本当に最後ですけども、

孫:
いえいえ、ゆっくり言ってください。テレビじゃないんだから時間の制限はないです。

佐々木:
そうですね。

孫:
テレビのような進め方をする必要は全然ない。

佐々木:
あとパネルは2枚です。
本当に国費ゼロで可能かどうかを、まず実務ベースで徹底検証してください。そのくらいの時間は十分あると思うんです。
その上で本当に国費ゼロでいけるのであると実務ベースできちんとコンセンサスをとれるのであれば、それは僕は光の道をバーンと推進するのはもちろんOKだと思うんです。
その上でそれによってブロードバンドが普及し、さらにその先にプラットフォームの競争が多分やって来る。

そのプラットフォームの世界でやんなきゃいけないのは、規制を撤廃し、市場を開放し、グローバル仕様で戦う。
ここまで進めないといけないと僕は思いますし、ブロードバンドの話はもちろん重要なんですけども、そこで話が終わっちゃうと非常にいけない事だと思うし、一方でさっき話したような不透明な情報をそのまま提示されて、そこで話を進めるというのは非常に反対です。
ということです。

孫:
わかりました。
仰るとおり沢山ありますので一つ一つ話したいと思いますけど、今の話の中で一番重要な基本のところは、本当に国費ゼロでブロードバンドを作れるのか。これが一番重要な質問だと思いますのでそれについて説明を納得するまでやります。

<目次>
【書き起こし】孫vs佐々木対談「光の道は必要か?」1 孫正義プレゼン
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