国会答弁で学ぶ三権分立

2011.08.11 参議院 予算委員会 中山恭子議員の菅総理への質疑

発言者:
前田武志 (予算委員長)
中山恭子 (たちあがれ日本)
菅直人総理大臣
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次に中山恭子君の質疑を行います。
中山恭子君。

はい、委員長。たちあがれ日本・新党改革の中山恭子でございます。今日各委員から、現政権、民主党政権の、いろいろ抱える危険な問題というのが提起されております。私からは非常に基礎的なところ、基礎的な問題を申し上げたいと思います。

7月22日の予算委員会で、片山虎之助委員が議員内閣制に関して質問いたしました。菅総理はそれに対して、「選挙で多数をいただいた政党が、内閣全体の責任を持つというのが議員内閣制の基本的な考え方だ」とお答えになっています。ただ、これでは、行政の執行についてのお答えが欠けています。行政府と立法府の関係について、もう一度お答えいただきたいと思います。

菅総理大臣。

あの、ちょっとご質問がやや抽象的なので、どうお答えしていいかちょっと戸惑っておりますが。私が常日頃、申し上げているのはですね、一般の皆さんは三権分立ということをよく言われるのですが、憲法の中には、我が国の憲法の中には三権分立という言葉はありません。つまり、国会が行政の長を選ぶ形が議員内閣制です。大統領の制度であれば、有権者が大統領も選び、同時に有権者が議員も選んで、それがいわば二元的に対応するわけですけれども、議員内閣制というのは、議員を国民有権者が選んで、その議員が行政の長を選ぶわけですから、私は、内閣というのは国会が作るものであり、つまり内閣総理大臣を含めてですね。そして国会というものは、有権者がもちろん議員を選ぶ。

そういう中で申し上げると、国会の中で多数を形成した、まあ一党であるか連合である…連立であるか別として、そのグループがですね、国民から「内閣を作る権限」を与えられて、一般的にはその党首を内閣総理大臣にして行政を行う。ですから私は与党という言葉はあまり適格ではないと。政権党というべきだろうと。つまり政権を担当する総理大臣を出す党は、政権と共にいわば行政に対しても責任を持って対応する。野党はそれに対して、いわば国会という場を通して、いろいろと意見を言う。こういうふうに私自身は考えておりまして、そういう趣旨のことを申し上げたかもしれません。

中山恭子君。

はい。今の総理のお答え、何と言ったらいいんでしょう。非常に困るお答えでございます。

日本は、明治の時代から三権分立を取り入れております。これは、権力が集中しないと。そのために、三権分立という考え方を取っております。憲法でも、三権分立という単語はありませんが、立法権、行政権、司法権とはっきり記載されております。また、行政、国会で選ぶ行政、総理、そして総理が組閣する内閣というものは、これは飽くまでも、立法府である国会が定めた法律の枠内において、その職務を執行しなければならない。また、内閣は行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負うこと、これが憲法で定められております。憲法66条、第73条。ということは、内閣は、国会が決めた法律の枠内でしか動けない、ということでございます。

そして、こういったことについての認識が欠けているということから、民主党政権は、法律無視、国会無視、国会無視ということは国民無視という姿勢が目立つことになります。法律で「執行せよ」と書いてあること、これは内閣は執行しなければいけない。ところがそれが出来ておりません。さらに、法律の根拠のないことを勝手にやっている。これが民主党政権でございます。心配なのは総理がもしお代わりになっても、この体質は変わらないのではないだろうかと、心配しながらおります。内閣が法律に沿って職務を遂行する。これを見失い、この基本を見失い、法治国家、日本は法治国家でございます。法治国家という形を失っているということは、大変危険な状態でございます。また国際社会からも、法治国家の意識のない国、政府に対しては、信用できないという状況が出てまいります。それは大変大きな、信頼を失う要因になっていると考えております。

こういった法律を無視した動きというのは、福島第一原子力発電所で1号機の事故の処理にあたっても、例えば、権限を持たない事柄について海水注入など、総理が法律を無視した指示を出す。または、公的な行政組織ではない、政府・東京電力統合対策室、これは全く公的な行政組織ではありません。ここで公務員が執務して情報を出すといったような、非常に数え切れないほど、その政府が法律を無視して動いているという状況は、これは枚挙に暇がないという状況でございます。もう一つ総理が、浜岡原子力発電所の原子炉の運転再開を中止するということを要請なさいました。朝日新聞の記者の質問に答えて総理は、「法律に指示命令は決められていないから要請したのだ」とお答えになっています。総理はそのようにお考えで、この要請をなさったのでしょうか。

菅総理大臣。

私の感じで言うとですね、中山先生の言われていることは、私が言いたいことの逆を考えられている気がします。私は三権分立ということがですね、憲法に書いてないというのは、決して行政権が独立して勝手に動いていいということを言ってるんじゃありません。全く逆です。

行政権というものは、親は国会なんです。そういう意味ではですね、総理大臣を選ぶのが国会であって、国会と内閣が同立の…同一の権限だとはいうふうには、私は思っておりません。今の憲法は、国民主権が基本でありまして、その国民主権の中で言えば、国民が直接選ぶ国会が、国権の最高機関であってそれは決して微調節と言われるような、形容詞ではなくて実質的にも形式的にも、国会が敢えて三権があるとすればですね、国会が直接国民が選ぶという意味で、最も権限を持っている国民主権のものであって、ですからその国会が選んだ総理大臣や内閣は、当然国会というものの広い意味での、だって指名権があるわけですから。

ですから何か私がですね言っていることが、行政が法律に基づかないで勝手なことをやっていいというふうに私が言って、理論的に言っているというふうに、とらえられてるとすればですね、全くそれは逆であります。

それから、今ですね、具体的なことを言われました。具体的なことは、海水注入について、私が何をしたのが良くて何をしなかったのが悪いという意味でしょうか。私は一度として海水注入について「止めろ」と言ったことはありませんし、現実に止まってもいませんでした。この点について、よく何度もこの場でご議論をいたしましたけれども、保安院からも、あるいは安全委員会からも、あるいは東電の関係者からも、あの時点ではですねなんとしても水を注入すると。そして少しでも冷やしておかなければならないということは、全員が一致した意見でありまして、そういう意味では真水の方が望ましいわけですけれども、真水がなくなった時には海水注入をすべきだというのは、皆共通の意見でありまして、そういった意味で私が、何かですね、ゴリ押し的に「止めろ」とか「止めるな」とか言ったという話は、全くこれは誤解というよりは、まさに虚偽の報道でありまして、そのことを明確にいたしておきたいと思います。

中山恭子君。

浜岡原発の要請について、どのようなお考えでなさったかお答えをいただきたく。

菅総理大臣。

私はですね、3月11日の原子力事故をふまえて、先ほど東電の対策室のことも言われましたけども、実際に対応してみてですね、官邸のいわゆる危機管理センター棟にいて、なかなか東電の現場の情報が、正確なものが入って来ないし、こちらがそこで決めたことも、東電の現場にまでですよ、つまり福島第一サイトまで届いているかということが、はっきりいたしませんでした。

そういった意味で、対策室というのは確かにおっしゃるように、法律には基づいておりませんでしたけれども、清水社長と私の合意のもとで作りまして、そこに当時の細野補佐官に常駐してもらって、物事が非常にスムーズに動くようになりました。ま、これを超法規といえば、超法規かもしれませんけれども、まさに必要なことであったと。必要なことであったと思っております。

そして今、浜岡についてもご指摘がありましたが、浜岡について、内閣の一部門であります文科省の地震の予知の会が、非常に高い大規模な地震があることの可能性を示しておりましたので、そういった意味ではですね、3月11日のあの大震災があったわけでありますから、そういうことを考えると、これを考えればやはり、停止の要請をすべきだろう。これは海江田大臣の方から、現地を見た上で私に、そうした方がいいんではないかという提言もありまして、相談をした上で合意をし、直接的には海江田大臣から要請をしていただいたという経緯であります。

中山恭子君。

はい。その、東京電力の海水注入の問題というのも、時間を追っていきますと、ちょっと時間が足りなくてここでは問題にできませんが、17時55分に既に、経産大臣から命令が出ておりました。それに対して、一番最初の時は「総理が海水注入をすべしということを英断なさった」という報道が出ました。そういった意味で、総理がそれをなさる権限はない、ということでございます。

その浜岡原発に関しまして、総理は「法律に指示命令は決められない」ということで要請なさったということでございますが、その命令指示は法的根拠が必要でございます。「ただ要請だから法的根拠がなくてもよい」ということにはなりません。総理の要請を受けた関係者は、特別の、これは他の災害特法、基本法などにも同じでございますが、特別の理由がない限り、この要請に応じなければならない、という状況に追い詰められることになっております。

特にその要請が、相手にとって不利益になる場合には、法律の根拠が必要で、法律の根拠なしに、総理が勝手に指示、命令、要請をすることは、憲法上からも許されないというのが、今の日本の憲法でございます。国民軽視になります。そういった意味でこういった事柄をしっかり、わきまえた上で対応していただけたらと思っております。

たくさん問題が、逆にですね、やらなければならないことが出来ていない。先ほどからずいぶん問題になっておりますけれども、稲藁の問題、子供の…子供が放射能に汚染されたままでいるというようなことも、これは、政府の不作為が大きな原因でございます。東京電力の原因ということでは、ありません。

今、もう一つどうしても、申し上げたかったのは、7月29日に基本法が出されました。これを読んで非常に、失望いたしました。それはなぜかといいますと、復興期間10年。5年間が集中復興期間と位置づけておりますが、その集中復興期間の5年間で19兆円程度で、すでに1次・2次で、6兆円使っておりますから、5年間で13兆円の予算が組まれることになります。そしてその後の6年から10年までが、残り4兆円となっております。

これで、いくらなんでも、東日本の復興というのは厳しい問題でございます。あそこに美しい故郷を取り戻し、人々が今後100年、心配なく住める。そういう地域を創るということが、この震災で亡くなった方々への鎮魂でございます。どうぞ、もっとしっかりした基本法をお作りいただきたいと思っております。ありがとうございました。

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