【TED Talks】“ママ抱っこしてよ”闇の中でもがく子供たち(登丸賢美)

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児童虐待問題および更生保護活動に関するスピーチ内容であり、 一人でも多くの方へ現在の実態を広め、 児童にとって良き社会になればと心より願って書き起こしました。

【スピーチ概要】
■タイトル:“ママ抱っこしてよ”闇の中でもがく子供たち
■スピーカー:登丸賢美(一般社団法人ProudYouth 代表理事)
■イベント:TED×Takasaki
■日時:2016年11月6日(日)
■場所:ホワイトイン高崎

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作業服のあんちゃんが出てきて、驚いた人もいるんじゃないでしょうか?
焼けた肌、刈り上げた頭、そしてニッカポッカ。

「おいおい、ここは現場じゃねぇぞ。 本当にこのあんちゃんが、これからクリエイディブなスピーチなんかできるんだろうか?」そんな風に思った人がいたら、ちょっと手を挙げてみてください。

(会場数人のみ手を挙げる)

あの…(笑)。 思いの外少ないな…(笑)。

一つ閃きました。優しさって、ときには残酷です。みんなが気使ってくれたんだけど、この後に用意していたトークが、みんな台無しです(笑)。 わかりました、やるしかないんでやります!聞いてください。

S君。彼は家庭の事情で、小学校1年生のときにおじいちゃんとおばあちゃんに預けられました。彼のおじいちゃんは、いわゆる企業戦士。寝る間も惜しんで、朝早くから夜遅くまで働いていたそうです。

そして彼のおばあちゃんは、免許がなかったので、自転車で行ける範囲内で、生活していたそうです。彼の通っていた学校は、家から歩いて約2時間半の道のり。小学校1年生が歩いて行ける距離ではないので、おじいちゃんが通勤途中に学校の校門前に降ろしていたそうです。なんと朝の5時半に。

想像してください。真冬の寒い中、朝の5時半に学校の校門の前で体育座りをして待っている子供の姿を。

しかし、ここまでの話を聞いて、悲観的には思わないでください。彼は今もすごく元気でやっています。なぜなら、こんなに素晴らしい舞台で皆さんの前に立ちスピーチができるようにまでなりました。

(会場拍手)

はい、私自身の話でした。後からおじいちゃんに聞いたら、私を校門の前に降ろす時に「あぁ、可哀想だな…。」って後ろ髪引かれながら通勤していたそうです。人とはちょっと違ったけど、俺は愛されていたんだと思います。

育っていく過程で、人には言えない、人より沢山悪いことしてきたけど、今では2人の子供のパパです。愛する妻と仲睦まじい家庭を築き、2つ会社を経営してカフェのオーナーもしています。そして、地域の青年団体で街づくりやボランティア活動にも参加しています。

ここまでの話を聞くと、苦難を乗り越え順風満帆。そんな風に見えるかもしれませんが、今でも昔のことを思い出すと、心の中がギュゥって痛くなることがあります。

「傷はいつか癒える」そんな言葉があるけど、それは絶対ウソ。子供の頃に受けた心の傷は、忘れることがあっても、消えることはないんです。

これは辛い体験をした子供にしか分からないかもしれません。今でもそんな思いがあるからこそ、僕は子供たちがすごく心配でなりません。そして、会社経営をする傍らで、更生保護活動というものにも力を入れています。

この活動は、いわゆる不良少年や家庭に恵まれない子供達、虐待、育児放棄、経済的理由で親と住めない子、死別といったケースもあります…。そんな子供たちの心に寄り添う活動です。

そしてこの活動をしていく中で、R君という少年に出会いました。

彼は1歳の頃、家庭の事情でおばあちゃんに預けられました。彼のおばあちゃんはとっても優しくて、いつも一生懸命面倒をみてくれて…。彼は、おばあちゃんが大好きでした。そんな幸せな毎日が続くと思った小学5年生の頃、彼のおばあちゃんは自殺してしまいました。理由はわかりません。

悲しみに打ちひしがれそうになりながらも、産みのお母さんと、新しいお父さんと、2人の子供である妹と暮らしを始めるようになりました。

「この寂しさが、なんとか紛れないかな…。」和やかな家庭生活を想像していた彼に訪れた現実は、アルコール中毒で大声を出して暴れるお母さん。彼のお母さんは水商売をしていて、昼間は寝ていて夜は出ていく。たまの休みに家にいると、お酒を飲んで大暴れするんだそうです。

そんな彼と私が出会ったのは彼が15歳、中学校3年生の頃。最初は目も見ず、下を向いて話もしませんでした。今では少しずつ良くなってきていて、中学も卒業しました。今は16歳になり、私の会社に勤めながら私の会社の寮で暮らし、私と一緒に仕事をしています。

そんな関係性ですので、彼とは2人きりになることがよくあります。この間何気なく彼に「おい、一つだけ…。一つだけ願いが叶うとしたら何がいい?」と聞いてみました。彼はすごい髪の色をして、やんちゃで元気な子だから、「俺バイクが欲しいっす!」とか「単車が欲しいっす!」という風に想像してたんだけれども、彼の口からでた言葉は…。

「おばあちゃんに会いたいです。」

一体どうしてこんなことが起こってしまうんでしょうか!?大好きなおばあちゃんがいなくなって、親も愛してくれない、生きるって本当に素晴らしいことなんでしょうか?

A君。彼は小さい頃から虐待を受けていました。ある日、布団で寝ていると上からお父さんにいきなり殴られ、鼻の骨が折れたことがあるそうです。また、ある日はお母さんが殴られ、ある日はお兄ちゃんが殴られ…。家族中が恐怖で震えていたそうです。

彼は男の子だから、お母さんが目の前で殴られるのが、どうしても許せなかったけど、怖くて何もできなかった。手も足も出なかった。そんな勇気のない自分をただただ、責める毎日を過ごしていました。

そんな彼がお父さんからよく言われていた言葉は、「お前なんかいなくていい」。

子供は大人の言うことをまっすぐ受け止めます。だから彼は、「俺はこの世に必要ない人間なんだ」「もしかしたら生きていることが罪なのか」と感じてしまったそうです。

そんな彼が21歳の頃、隣人からの通報で、お父さんが捕まりました。そしてお母さんは、自分と一番年上の妹を置いて、どこかへ消えてしまいました。

突如訪れた、妹と自分の2人の生活。何からして良いかかわからない。頭が真っ白。不安で、押し潰されそうになりながらも、一つだけ希望ができたそうです。

その希望は、「目をつぶったら全てが終わって楽になれないかな…」。 彼は、自殺願望を抱くようになりました。それでも自分がいなくなった後の妹のことを思うと、妹が心配で死ぬことはできませんでした。

彼が一体、何をしたっていうんでしょうか!?こんなに酷い仕打ちを受けても尚、妹のことを心配して、死ねない。彼のその優しさはなんで報われねんだよ!?

そして、彼らに共通しているのは、親から愛されることを期待して裏切られたということ。裏切られることは痛いから、こりごりだから…。だったらもう何もいらない。こうやって、心が空っぽになっていくんです。

僕と同じような活動をしている仲間から、こんなことを聞いたことがあります。幼少期に虐待を受けている子供は、必ずと言っていいほど「お母さんに会いたい」「お父さんに会いたい」って、言うようになるそうです。子供はただただ、親から愛して欲しいんです。

こんな子供たちがたくさんいるということを受け止めて欲しいと思います。そして、彼らは、お母さん、お父さんに愛を求めながらこんなことを思います。

殴られたのは、自分がいうこと聞かないから、悪い子だから、「お前なんかいらねぇ」と言われたのは自分が他の子より劣っているから。もっと頑張んなきゃいけない…。

だけどそんなの絶対間違ってるんだよ!おかしいのは大人達なんだよ!だって、自ら望んで生まれてきたわけじゃねぇだんべ!

そして、ここからは大人達の皆さんに話したいと思います。日本の子供の数は、約1605万人。児童虐待の相談件数と、児童養護施設に預けられている子供の数を合わせてみると約15万人。つまり、おおよそ100人に1人の子供は親からまともな愛情を受けていないことになるんです。

こんなに大きな問題なのに、社会的関心は低く知らない人も沢山いる。これってちょっとおかしいと思いませんか?

だって、今あなたの目と鼻の先で涙を流している子供達がいるんです。その現実をまずは受け止めてください。そしてここからは、人間だけが唯一使える能力を使ってください。それは“想像”です。

明日の世界を、または未来を創っていくのは子供達です。その世界を創る子供達の100人に1人がまともな環境下で育っていなければ、この国はどうなるでしょうか?簡単に想像ができます。

そして想像ができたなら、やるべきことは簡単です。今すぐにでも、自分ちの子供、お孫さん、今より少し深く愛してください。そして同時に、自分ち以外の子供、子供の友達でもいい、愛してやってください。

今よりもっと、目を凝らして見てやってください。そっと声をかけてあげてください。そんな些細な行動が、子供にとっては一生心に残る、嬉しい体験になるんです。

確かに、たった1人の力では世界は変えられないかもしれない。けれども、たった1人の力で1人の子供の世界は変えてあげることができるんです。もっと知ってほしい、子供の傷の深さを。私たちの無知がもたらす悲劇を。そして、私たち大人が、子供たちを救ってあげられるということを。

100人に1人の子供。これを悲劇と思うか。また、捉え方を変えて100人に1人、沢山いるからこそ今より少しだけでも注意をして子供たちを見る。そして心配な子がいれば、声をかけてあげる。それだけで、たくさんの子供を救ってあげることができるんです。

このアイディアが、今日僕からの大人たちへ贈りたいギフトです。そしてここからは、今もひとりぼっちを感じているみんなに話したいと思います。

みんなは、不幸になるために生まれてきたんじゃない。幸せになるために生まれてきたはずなんだ。

今はまだ分からないかもしれない。どれだけ自分が素晴らしいか。だけど、絶対幸せになるはずなんだ。本当のことを話すと、今日、今この時間が来るまで、俺は自分の子供の頃のことなんか話したくなかった。だって、真冬の朝校門の前で体育座りをしている子供は普通じゃない…。分かってる。

こんな話しをしたら、みんなから変に優しくされるんじゃないかとか、特別な目で見られるんじゃないかってずっと怖かった。

多分初めて俺のことを見た人は、何にも悩みなんかなさそうだし、丈夫そうだし、そんな風に見えると思う。そういう風に着飾って、生きてきた。そうしていないと、今まで積み上げてきたものが、全部なくなっちゃいそうで怖かった。みんなと同じで怖かった。

だけど、毎日みんなのこと考えると、なんかみんなの心の傷が、自分の傷のように思えてもう見てらんねぇから、勇気を振り絞って今日ここへ話しをしに来ました。

今日の俺の姿を見て少しでも勇気が持てたなら、心が震えたなら、今度はみんなが苦しんでる仲間を応援していってほしい。

今にも負けそうになっている仲間を助けてやれるのは、みんなだけなんだ。だって彼らの中には、自分の姿があるから。

生まれてからずっと嫌なことばっかりだったかもしれない。今もそうかもしれない。だけどそのおかげで、俺たちには特別な能力が宿っている。声無き声が聞こえる。

耳を澄ますと、「お母さん、抱っこしてよ。」「お父さん、運動会に来てよ。」そんな声が聞こえてくる。

自分と同じ痛み。どれだけ痛いか本当によくわかる。今、みんなに与えてもらえる幸せが無いんだったら、与えてあげる幸せを感じて生きていけばいいんだよ。そしたら、与えてたはずの幸せが、いつか君の心をきっと幸せな気持ちでいっぱいにする日が来る。俺もそうだった。

自分が出会った子供達を、なんとか幸せにしてやりたいと思って活動を続けてきたけど、気づいてみたら、自分が毎日幸せになっていた。こういう幸せの形もあるんだっていうアイディアが、今日のみんなへのギフトです。

そして最後に、大人達を代表して、みんなに謝りたいと思う。もし今みんなが、悲しい思いをしてるのであれば、生きてる価値さえ見つけられないのであれば、それは君たちのせいじゃない!他でもないすべて大人達の責任なんです。
本当にごめんなさい。そして、絶対幸せになってね。

ご静聴ありがとうございました。

書き起こした理由:児童虐待問題および更生保護活動に関するスピーチ内容であり、 一人でも多くの方へ現在の実態を広め、 児童にとって良き社会になればと心より願って書き起こしました。

書き起こし元:https://www.youtube.com/watch?v=xBjapi5DKHI

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